No.1 大学のある街 Farnham(ファーナム)

大学のある街はロンドンから西南へ電車で50分ほどの古いところ。距離感覚はちょうど阪急京都線で桂から梅田へ出るような感じ。方角もそんな感じなのでロンドンに出る時は梅田から桂に帰るぞ!っていう感覚。ロンドン郊外の街はもちろんベッドタウン化していて一時間圏内は家賃や物価も比較的高い様子。特にFarnhamは古い城下町で静かな住宅街だから住民の平均年令も高く、電車を乗り降りする人たちの顔ぶれから判断すると管理職以上の人が多いので比較的静かで落ちついたところ。イギリスではPark & Rideを国が推進しているらしくてどこの駅にも大きな駐車場があって、Farnhamにはポルシェやジャガーがずらり。レンジとアウディも多い、それもデカいやつが。そんな感じのいわば保守的な街に美術大学だから学生は住民からほんのすこし嫌われてるみたい。だから遊ぶところがなくて一言で言えば街は退屈。でもこんなところを通り抜けて通うのはなかなかよろしい。

街全体は歩いても2,3時間あればまわれるほどの規模で(線路の向こう側の住宅街はもっと広い)そこに中世から続く城や教会があって休日には「プチ観光」のおっちゃんおばちゃんで街はあふれかえる。どれも立派ですごいけど2回は行かないな、なので週末はロンドンへ脱出。

住宅街にはこんな不思議な?童話に出てきそうな家がたくさんあってこれは結構楽しい。イギリスは古いものを大切にする国民性らしくて(本当のところどうなんだろうか?)築30年くらいの住宅はまだ「新しい」部類に入るらしい。特に家は自分達でせっせと直すからその時間と手間の堆積観というか、家だけど、使い込んだ道具っぽさがいい雰囲気を出してる物件が多くて、思わず「いいな、これ」というのもいくつかあり。(→これはFarnhamじゃないけれど)

で、これが大学。The Surrey Institute of Art & Design, University Collegeが正式名称。長い!所謂総合美術大学でFine Art, Design, Craftといった一般的な専攻に加えてFashion Journalismがあるのがおもしろいところ。「観る側」の視点を育てるということか。学部レベルでは細分化されていて早い時期から専門的な技術を身につけることができる。特にメディア系は機材も充実していて、BBCとのタイアップもあったりしておもしろそう。詳細はここ。工芸系はすべて[Three Dimensional Design]の中に含まれていてここにはデザインマネージメントやビジュアルコミニュケーションの学生がいたりして、CraftとDesignを行き来しながら単独の領域からのアプローチでは解決しにくい問題に取り組むといった雰囲気。イイ感じ。図書館には8000本のビデオライブラリーが見放題、100台近くのiMac/eMacがズラリ。どの端末もIDを入れるだけでWeb使い放題。こうでなくっちゃ。

で、これが居場所。もちろん漆の専攻なんてないので作業場はどっかに確保することにしてここではパソコン仕事。今回の研修ではコンピュータで直接造形するのが最初のテーマなので当面はひたすらここで画面に向かう。チューターのNickは若いがThree Dimensional Design全体のプログラムリーダーでコーディネーター。もとはRCAで陶器や木を使って作品を作ってたらしくてデジタル大好き、メディア、デザインにもほんとに詳しくてたのもしい限り。ここはCraft Study Centreといっていわゆる古いくくりの工芸を乗り越えた活動のあり方を大学が、そして彼が積極的に展開したいみたいでここでなんでも好き放題させてもらってるのもそれが一因。そもそも受け入れてくれた一因でもある。何人かレジデントはいるけれどほとんど個室ともいえる居場所があるのは俺だけ。ラッキー。滑りだし順調。

とある日常。左から時計周りにメタルのチューターのスティーブ、学部長のイアンさん、右端はセラミックのチューターのガウシュ、手前がニック。この日はガウシュの子供達が遊びに。芸大と違ってみんな朝からバリバリ、ピリピリ仕事して夕方になるとこうした「ゆるんだ」時間がやってくる。5時頃には学生はすっかり居なくなるし大学もきっちり7時頃には閉まってしまう。芸大じゃさあ、これからって時間帯なんだけどね。なんだか健全。だから一日があっという間に終わってしまう。そうそう、何ごともゆっくり進むこの国だけど家に帰るのだけはみんな早いって誰かが言ってたな。

右は図書館カード、事実上の学生証。これでたいていの所は学割OK。日本にいた頃は美術館にはだいたいタダで入ってたし学生の時はあまり積極的に学割を使わなかったけどロンドンの美術館などはやたら高いのでこれがあるとないでは金額的にも気分的にも随分違うのだ。左はその名も「Young Person's Rail Card」、そうヤングなのだ。これで電車代が2/3に。ロンドンまで往復とチューブ(地下鉄)乗り放題でふつう、12.75ポンドのところが8.75ポンド(約1600円)だからだいぶ違うのだ。ああ学生万歳。学生じゃないけど、いやいや。とっくに卒業してるのに事務室で学生のふりして発行してもらってるレジデントとかに比べりゃ罪は軽いか。この学生証(?)で国際学生証が作れれば飛行機だって学割がきくのだ(そうな)。電車も短い区間なら切符を買わなくても検札にこないからOKとか、日に日にズルく、いや賢くなるのでした。


 

町には探せばいいディテールもあり。

 

目次へもどる

感想・リクエストはこちらまで


町で良く見かける郵便屋の自転車。クロモリ、シングルギヤにブレーキはタイコというとてつもなくシンプルで、でもどれも乗り込んだいい味が出ている。イギリス人の体型に合ってるのか乗ってる姿がいい感じで急いでるわけでもなくノロイわけでもない独特の雰囲気を醸し出しながらチャリチャリ〜っと。ほしい。