No.8 Londonその1

ロンドンには大体、1〜2週間に一回の割で。この日は滅多にない晴天だったので南西の玄関口ウォータールーからビジネスの中心街バンクへチューブで移動。そこからミレニアムブリッジを渡ってTATE Modernからロンドンブリッジへと川沿いを歩く「再開発ゾーン」めぐり。 散歩にはもってこいのコース。途中でTATEに入るもよし、デザインミュージアムで小物を漁るもよし、シティホールの広場でランチにしてもよし、何度も違った楽しみ方ができる。今日はひたすら撮影。  

道行くオバハンの「Stupid!」の罵声にもめげず、がんばるボーイズ。撮りだすと急にシャイになるのか座り込む子もいたりして。もっと飛ばんかい!って思うんだけどね。そんなことはさておき、ロンドンアイ。(http://www.londoneye.com/)新名所として年中行列が。スポンサーがBAというだけあって切符もボーディングチケットとか言う。世界最大の観覧車として1999年大晦日オープンをめざして7年がかりで建設。結局2000年3月とあたりまえのように遅れて公開。直径135m、30分でひと回り。32個の25人乗りのカプセルは足下までシースルーで高所恐怖症の人にはほんとに勧められない。晴れた日には40km先まで見えるそう。構造はまさに自転車のラジアル組み(フツーの自転車のスポークは交叉しているが中心のハブとリムを直線的に結ぶのがラジアル組み。回転方向の剛性が高いのが特徴)と同じ。

しかも片持ち。つまり車軸を片側だけで支えてるということ。シンプルで軽量な構造ならではの技術。駆動は地上部分でリムの部分をタイヤでぐるぐる回してるだけ。観覧車であることはさておきシンプルで合理的な大きな構造は見ていて気持ちがいい。京都の北山とかにある、これみよがしの誰かさんの建築とは大違い。テムズ川沿いに聳えたつが建設の時にはちょうど車輪を川に浮かべるように組み立てておいてクレーンでひっぱりあげて作ったそうで、利口というか簡単というか。こういう「ブレイクスルー」は何事にも新鮮な驚きと発想の活性化をもたらしてくれるもので物事が停滞しているときにこそ適宜必要なことだと思う。そういう意味ではデザインや建築が元気なロンドンの今をよく象徴していると思う。

昼間に乗るとこんな感じで満員でとても「あそこがなになに!」とか、やってられないので静かにゆっくり‥と思ってる人は夜がオススメ。ロマンチックな30分に£9.5(約1800円)は高いか安いか。観光で来てるならきっとどうってことないだろうが、住んでるとなにもかも急に高く感じてしまう。「住む」とはそういうことなんだろうか。

さてBANKに移動。バリバリのビジネス街に日に日にその姿をあらわにしていくこのポッド。大英博物館の天井の架構が印象的ななFoster & Partnersの設計。ミレニアムブリッジから見るとひときわニュキっと突き出たモスラのマユみたいなこのビルにはさすがに賛否両論あるらしい。他のFosterの建築に比べたらもひとつな感じがするが。丸いからかデカイが威圧感はない。ロンドンのビジネス街の新しいシンボル。百年後の人たちの目にはどんな姿に映るんだろうか?(百年ももたないのかな?)

ちょうど南向かいにその偉容を誇るのが保険の老舗ロイズ。ふつう建物の内側、しかもどちらかというと裏方で目立たないところへ追いやられている各種配管/配線を逆に建物の外観としてしまったデザイン。エレベーターももろむき出しで上下してる。配管の類いは熱の処理が問題になることが多いだろうから剥き出しというのは合理的なのかもしれない。でもメンテは以外と苦労しそう。余談だがロンドンでは秋の一日オープンデーという普段は入れない企業や公共の建物が一般に公開される日があって建築を中からも楽しめるイベントがある。去年のその日、上下アーミールック(普段着)のギリシャ人の友達と見学に入ろうとしたら警備員がすっ飛んで来て制止された。それもそのはず、その日は9.11のわずか二週間後だったのだから。

さてSt.Paul'sを横目でみながらミレニアムブリッジへ。歩行者専用ながら開通当初あまりの揺れで通行禁止になったいわくつきの「記念」すべき橋。一年半後の2002年2月にしっかり渡れるようになった。デザインはこちらもフォスター&パートナー、構造はオヴ・アラップ。橋は本来対岸へ渡るというための道具であって、でもまた同時に背景や風景と一体となって「いい橋」なるものが存在するのだと思うが、渡っていてこんなに橋そのものの存在を感じる橋も少ないと思う。特に感動というものでもないのだが。なんだろう?不思議。

TATEモダンでは今カプーアの巨大彫刻が話題だ。搬入時からTV中継されたりしてカプーア自身も現場のおっちゃん然とした姿で「もう大変です」とか言いながら出演してた。精密な計算のなせる技。規模の点から言えばもはや彫刻というより建築のスケール、しかしやはり彫刻だ。3ケ所のスチールの円形フレームを赤いラテックスっぽいクロスにテンションをかけてつないだという形。今3つの曲線をCADなりにつなげさせて造形のベースにしようと日々試行錯誤の連続なだけにおもわず「ウ〜ム」と唸ってしまった。

ふつう、美術作品はそれが話題の作品であればある程、大衆の勝手気ままな好みや解釈に翻弄されるものだがこの作品についてはいわゆる「好き」「嫌い」というような声があまり聞かれない。みんな「もう見た?」と聞いてその後はだいたい「すごいね」で終わる。好みを超越してるのか接し方に戸惑っているのかよくわからないが、やはり壁と天井をとっぱらって全体像を見てみたいと思う。でもそれではこの作品の意味がなくなってしまうんだろうけど。そうしたアンビバレントな感じがなんとも心のどこかにもどかしくひっかかる作品だ。やはり「ウ〜ム」な作品。感想になってないな。

TATEから川沿いに東へ。まもなく卵をつぶしたようなロンドン・シティホールが見えてくる。市役所。10階建てでこんもりと丸いから小さく感じる。それもそのはず、同じ規模の四角いビルと比べて表面積が25%少ないとか。ちなみにレンズの加減でひしゃげて見えてるのではなくて実際に南にせりだして建ってる。太陽光線による内気の対流循環を利用したハイテクエコビルなのだ。しかも「空調」ならぬ「水調」水を使った冷却装置ともあいまって光熱費はなんと1/4で済むのだとか。原子力で作った電気はクリーンで安いとか言いながらゴッツいツケのやり場に困ってるどこか

の似非エコ大国とはそもそも発想からして違う。去年フォスター&パートナーの展覧会で(そう、これもフォスター&パートナーの作品)このシステムの解説を読んだ時単純にすごいと思った。上はタワーブリッジとの関係。下はタワーブリッジ南詰めより西を臨む。ともにロンドンの新しい風景。しかしたった2時間ほどでいくつもそれぞれ違った特徴(それもとびきりの)を持った新しい建築を体験できてしまうロンドンの一連のミレニアムプロジェクトには感心するが、これがなかった10年前とかはさぞ退屈(少なくとも僕には)だったろうなと思う。逆に古い町並みを残したい

と考える地元住民にとっては迷惑以外のなにものでもないだろう。300年後にも存在するとはとても思えないし。ともあれ世界中の都市が抱える「景観」問題に対するもっとも「カッティングエッジ」な例だろう。何を勘違いしたのか京都にいきなりボン・デザールそっくりの橋を架けると市長が言い出した時には驚きを通り越して世も末だと思ったものだが(余談だが反対運動を展開したのは京都在住の外国人達だったのだ。きっと世界中に笑い者になってたんだろうな)それは論外としても一見、まとまりのない極端なコントラストというのもその実お互いがクローズアップされてかえって古いものが新鮮に見えることがあるという好例ともいえるのではないだろうか。どの建築も特徴的だが無駄な装飾のない「引き締まった」設計と、「合理性」という伝家の宝刀とを大きな盾にやり切ってしまってるという印象を受けた。「合理的」であれば基本的には文句の出ない国民性ならではのアプローチだと思う。これぐらいドラスティックにやってこそ景気回復も期待できるというものだろうか。(26/11/02)  

 

 

 

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