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工芸的素材を用いる美術作品を、作家と鑑賞者の間でその素材に対する認識を活性化させる触媒として作用するものとするなら、現在の漆作品はその役割を十分に果たしているとは言えない。陶芸や染織のように実生活に密接に関りを持つ素材の作品では鑑賞者が作品に触れられなくても、手先の感覚を素材に対する先入観や体験に重ねあわせつつ作品を感じることは可能だ。しかし現代の生活における漆の存在はもはや幻に近い。体感として経験のない素材を用いて作られた作品に鑑賞者はどんな感覚で接することができるのだろう。特に素材感や質感を非常に重要な要素とする漆にとってこの状況は忸怩たるものだ。今、漆をとりまく環境の中で最も欠落している部分は鑑賞者の日常的な素材体験なのだ。もちろん芸術として素材の可能性や素材そのもののについて深く考察し、表現という形で世に問うことは不可欠な営みであるが、そうした営みを根本から支えているのは生活という広がりを持った素材との日常的な関係であることを忘れてはいけない。今更言うまでもないが「生活の用」といった一面的な側面からではなく、視覚的、触覚的、芸術的それぞれの面で漆との素材体験をより深めていかなければならない。私達漆作家はそうした機会を多様に柔軟に提供し発信し喚起していくべきではないだろうか。
(会場配布の作品目録より)

土岐謙次

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