<会場で配布したリリースより>
-Surface Time-
私の活動は漆器というものに対する一般的で懐古主義的なイメージの解放を柱に据えたものであり、これまでは現代の空間における”漆”と人間の距離感ということをテーマに立体製作を行ってきました。「人の空間にある漆」という関係から「漆の空間に居る人」という関係への意識の転換をねらったものです。これら一連の漆作品の製作過程において副次的に私の意識の中に芽生えたものは、漆という素材が非常に”表面
的”な素材であるということでした。漆はあくまで液体塗料としての素材であり作品として成立するために”塗装する”という行為と”塗装されるもの”としてのなんらかの媒体が必要とされる、というそのありように関心が移ってきました。
本来、漆は単なる塗料であり、非常に表面的な素材です。表面を提供してくれる何らかの「塗られる」対象となるものがなければモノとしてとても存在しにくいにも関わらず、「塗り物」といわれるものの多くにおいて、その「塗られるもの」の存在はあまり日の目を見ません。プラスチックの漆塗りのお椀でさえ、「中身は木ですよ」と言われてみれば余程のその筋の人か、二つに割ったりしなければその真偽は分からないでしょう。この展覧会の作品では様々なモノを型に成形されたカーボンファイバーの一部分が漆塗りになっています。同じ表面
上で「塗るもの」と「塗られるもの」の対等な関係が作品として存在します。そして「塗る」ことによってはじめて型取りされたモノの姿が浮かび上がります。この時が私と作品にとってとても充実した瞬間になります。
土岐 謙次