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98/12/1 形式

オギュスタン:ベルク「空間の日本文化」(宮原 信 訳 ちくま学芸文庫)より
形式を真に尊重するのは、構造的に重要な点をいくつか抽象的に理解する以上に実は難しい ことである。それはまたより効果的でもありうる。何故なら模倣者は結局のところ、彼が 理想化したモデルを凌駕するからで、次の例はそれを示している。  北海道は日本で、酪農がもっとも発達した地域である。そこでの牧畜業の技術レベルは きわめて高い。ところがこの技術の伝播は最近になって行われた。両大戦間のもっとも活動的 な先駆者の一人宇都宮仙太郎は、デンマークの牧畜業を手本とした。目的は具体的なある一つ の技術の導入移植である。したがってふつうに考えれば、この技術を充分マスターし、経営上 の諸要素(原価、市場、等)を正しくそれに折り込めばよかったはずである。ところが宇都宮氏 は、技術移入に関して今日もっとも西欧指向的色彩の濃い専門家が説くところを遥かに超え、衣服、 食事、住居、社会・経済的関係(協同組合)、宗教といった、日常生活のもっとも細部にわたる 点までお手本通りにしたのである。彼の設立した協会の規約には、頭を剃るべからずという項目 まで見られる。剃髪は日本の習慣ではあっても、スカンジナビアでは行われないからである。  要するに宇都宮氏のとった態度には象徴体系への賛同という日本人の性癖の原型が見られると 言えよう。ー中略ー黒斑のホルスタイン種を充分世話するためには、酪農業の勉強だけでは足り ない。デンマーク人と同じ髪型をしなければならない‥。  西欧人は長い間これをただ、猿真似、前理論的なメンタリティ、スノビズムなどと評すだけで 満足してきた。しかし今日彼らも、象徴による相手への信奉こそもっとも効果 的な進歩の源泉で あることを理解しなければならない。何故なら、その際動員されるのは知力だけでなく全人格だ からである。技術体系の移入とは事実、極限においては単なる諸技術の導入ではなく、まるまる 一つの文化の比喩<メタファー>(=移動)なのだ。だからこそこの種の移動には危険が伴う。 受け入れ態勢があまりに部分的ならば失敗に終わるだろうし、あまりに完全ならば自己喪失現象 が起きるだろう。まことに、物質的成功に大騒ぎしている日本人自身にも、自分たちがこのジレンマ を解決しえたか否かはよく解らないのである。(p112)

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