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99/11/12 漆塗り

漆はその性質上、単独で存在することは現実的には不可能であり、作品として成立する際、胎を 必ず必要とする。木に塗装されて器となり、蚊帳に塗られて乾漆となる。これらは総称として漆塗 りと呼ばれるが、それはあくまでも物の表面を覆いつくす漆にのみ注意をはらった視点であり、通 常 胎の存在は、その物の形態の本質的な要素であるにも関わらず軽視されてきたと言っても過言では ない。現代、様々な物が漆塗りを施されて、’漆塗り’イコール’高級’というイメージを定着さ せているがたとえそれが車であろうと、カメラであろうともはやそれらは本来の出自よりも’漆塗 り’であることのほうがクローズアップされる。すなわち胎となるものはいかなる機能を有してい ても借り物でしかないのである。(漆塗りの車は屋外をめったなことでは走れない!)それほど 我々日本人は漆塗りという文化に高い尊敬と憧憬を抱いていると言える。この”思い入れ”は独自 の発展を遂げた伝統として好意的に受け止められて然るべきであるが、同時に美術表現としての 漆芸を見つめる視点にとっては焦点を曇らせる排他的な感情になってはいないだろうか?
                                 土岐謙次

 

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